10月7日号

鈎真一(まがり・しんいち)
栗東町(現栗東市)出身。小学校時代は野球少年。「仕事人間」で家庭を顧みなかった反省から、今夏は娘と園芸を楽しんだ。
「やきもの探究 自身と葛藤」 −滋賀県立陶芸の森学芸員 鈎真一さん(37)

学芸員は雑芸員といわれるほど仕事範囲が広い。展示前は資料と首っぴき
 「博物館で働きたい」というのは、鈎さんにとって「なりたい職業の一つ」だった。きっかけは「鈎」の姓。「いつも違う呼び方をされ、初対面で正しく呼んでもらったことがない。それが子ども心にいやだった」

 小学4年生の時、名古屋の博物館に展示されていた古文書の中に同じ姓を見つけた。「けっこう古いころから使われてきたんだ」と、ちょっぴり自信を持ち、同時にいろんなことが分かる博物館への興味がわいてきたという。

 大学の法学部を卒業後、2年間、会社勤めをしたが「自分自身の可能性を試してみたい」と退職。アルバイトをしながら子ども心にあこがれた職業の一つ、学芸員の資格を得る通信教育を受けた。

 資格を手にしたころ、陶芸の森で嘱託職員を募集していた。「信楽に縁がなく、やきもののやの字も知らない」と謙遜(けんそん)する鈎さんだが、正職員に採用され、3年目から企画を任されるようになった。最初の自主企画が平成11年の特別展『やきものの20世紀』だった。

 「近代から現代までのやきものの展開と、社会の接点を探るのがテーマ。でも苦し紛れに大風呂敷を広げ過ぎたのかもしれない。勉強不足は否めず、いろいろと悩んだ時期でしたね」。幸い入場者数はそこそこであったが、逆に「この仕事の厳しさや怖さを実感した」と述懐する。

 「いかに無知であったかが分かるし、恥ずかしくなった。次は納得できるものをと目標を立て…。でも、これはきりがない。いつも自分との葛藤(かっとう)です」

 以後、「滋賀やきもの探訪」「デンマーク王室の陶磁コレクション」など、国内外の企画に携わる。昨年担当した「滋賀の陶芸家たち」では県内約150人の陶芸家に会い「生の情報を得る大切さ」を学んだ。巡回展での他館の関係者との交流でも視野を広げる。回を重ねるたびに教えられ、自分なりに手応えを感じることも多くなってきた。最近は「少しは自分の思いが来館者に伝わるようになったかな」と苦笑する。

 湖国の秋を彩る特別展は『近江やきものがたり』(開催中〜12月17日)。近江の軌跡をたどり、その魅力に迫る。「見に来てくださる方に一つでも何かをつかんでいただける、そんな場であってほしい」。それが鈎さんの願いである。

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