7月15日号
自然の中 息づく歴史 近江鉄道「尼子」

無人の尼子駅は地域住民が管理する「コミュニティーハウス」になっている
 JR京都駅から新快速で彦根駅まで直行、近江鉄道に乗り換えて3つ目の駅が尼子−。新快速からローカル電車へ乗り継ぐと、時間の流れが急に減速される。景色がゆっくりと流れる車窓を眺めていると、目の前に田んぼが広がる無人の尼子駅に着く。

 乗客はホームを降りると足早に、改札口を通らず外に出る。木造瓦ぶきの駅舎はそのまま「コミュニティーハウス」になっている。「駅員さんが来るのは湖東三山の西明寺がにぎわう春秋のシーズンだけです。その期間はホームにあふれるほど人が降り立ちますが、普段は静か。シルバー人材センターから派遣されている私たちがハウスを管理しています」と宮尾幸子さん(59)が話してくれた。ピカピカに磨かれた駅舎と花が絶えないハウスの玄関口や駅前広場「親水公園」の植木の世話や草取りも欠かさないという。

 1時間に1本の電車が行き交う駅舎と並行して走る新幹線が、ひっきりなしにごう音を響かせて飛び去っていく。駅前に広がるのどかな田園風景と犬上川から引いた親水公園の芝生と植木を縫うせせらぎが好対照の光景だ。たまたま車で通り掛かった甲良町地域振興課の橋本浩美さん(38)に「甲良は自然の中に歴史が息づく町です。ぜひ散策してみてください」と言われ「甲良町ウオーキングコース」のパンフレットを手に「せせらぎコース」(7キロ)にチャレンジした。


 駅前から田園地帯を20分ほど歩くと、下之郷の外れにある桂城の滝に着く。スポーツ公園の一角に造られた大岩に水車の回る農村風景=写真下=が楽しい。下之郷集落から、田植えが終わって緑のじゅうたんを敷き詰めたような緑の田んぼを見ながら法養寺集落に入ると、江戸末期の旧家を利用した甲良豊後守宗廣記念館がある。江戸幕府の大棟梁職で日光東照宮の大造替などを完成させた甲良大工の道具や資料が展示されて興味深い。高層ビルのない、落ち着いたたたずまいの民家の前を流れる用水路の、小さな水音とかれんな花が心と体を癒やしてくれる。

 近江平野に点在する農村集落には犬上川の水を取り込む「ほ場整備事業」が進行中だ。町の至る所に「せせらぎ」があり、住民挙げての「せせらぎ遊園」の町づくりが美しい農村風景をよみがえらせている。田んぼに引く水を集落にもおすそ分けした住民の生活の知恵が素晴らしい。

 在士集落に入ると甲良の偉人・藤堂高虎ゆかりの高虎公園に騎馬にまたがる高虎像が立ち、隣には藤の名所で藤堂家ゆかりの八幡神社がある。駅に引き返す途中、古社・甲良神社に参拝して駅にたどり着いた。こんもりと茂る森の中の檜皮(ひわだ)ぶきの本殿が約2時間余のウオーキングの足の疲れを和らげてくれる。

 広々とした田園地帯に農村集落が点在。「せせらぎ」をキーワードに自然と歴史遺産を見事に調和させた尼子の里。駅を拠点に佐々木道誉ゆかりの勝楽寺まで足を延ばす15キロコースなど5コースがある。

八幡神社(甲良町在士)

 尼子駅から徒歩30分ほどの在士集落にある。江戸初期の武将・藤堂高虎の出生地に建立された神社。高虎は戦国時代に浅井家に仕えて織田信長と戦い、浅井家滅亡後、関ケ原の戦いで徳川家康軍に付き、幾多の武勲を立て、今治の城主、伊勢国の大名などを務めた。

 築城の天才ともいわれ、今治城や宇和島城、伊賀上野城、篠山城などの名城を築いた。中世の知将・佐々木道誉、大棟梁・甲良豊後守宗廣とともに甲良三偉人とたたえられている。毎年5月、境内に咲き誇る高虎ゆかりの紫藤樹の下で「藤切祭」が行われる。

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