6月24日号
豊かなわき水に支えられ JR湖西線「新旭」

豊かな緑と涼やかな噴水が駅舎に彩りを添える
 湖西線の高架駅舎はいずれも画一的で、あまり魅力的とはいえない。殺風景な上、無機質で、まるで個性がないのだ。新旭駅でも同じ思いをしたが、駅周囲の豊かな緑が駅舎に彩りを添えていて少しは気持ちが潤う。

 改札口を通る人たちが駅員の西川光三さん(64)と笑顔であいさつを交わしていく。「ほとんど顔見知りですから」と西川さん。一日の乗降客が1200人ほどという小さな駅ならではの心和む風景だ。その西川さん、実はJR西日本の社員ではない。駅業務を委託されているJR西交通サービスの社員だ。湖西線の駅の中でJRの社員がいるのは西大津や堅田などわずか3駅にすぎず、他の駅では同交通サービスが駅業務に当たっていることを、西川さんに教えられて初めて知った。

 駅の西口にある地場産業振興センターにまず足を運ぶ。新旭は綿布と扇子の町として栄え、いまでも日本でも屈指のクレープの生産地だという。同センターの売店で肌触りのよさそうなクレープの下着を記念に買った後、15分ほど歩いて国道に近い生水(しょうず)の郷・針江地区に向かった。

 「水が生まれる」という表現に偽りはなく、針江では安曇川の伏流水が随所で湧出(ゆうしゅつ)する。各家ではわき水の噴出口に水場を設け、家事場として使う。川端(かばた)=写真下=と呼ばれるその家事場を、住民の福田千代子さんに案内してもらって廻ってみた。


 福田さんによると、地区の約100戸が川端を設けているという。屋内に設けたのが内川端、家の周囲を巡る水路に接するのが外川端。残飯などを処理して水を浄化する役割を担っているコイが川端でも水路でも悠々と泳ぐ。季節を問わず12度程度の水温を保つという水は清らかに澄み、水底の小石も透けて見える。勧められて飲んだ水の、ひんやりとして柔らかな味わい。

 各家で使った水は水路に流れ、梅花藻がそよぐ清冽(せいれつ)な針江大川を経て琵琶湖へ流れ込むという。巧まずしてしつらえられた自然な水の循環に感動すら覚えた。地域の暗黙のルールは水を汚さないこと。川端で洗剤などは使わない。「上流の人は思いやりを、下流の人は信頼を」が地区の合言葉でもある。

 人と水と生物が共生する暮らしにひかれるのか、このところ針江を訪れる観光客が増えてきた。川端を体験する泊まりがけのエコツアーも人気だ。地元の食材を使ったもてなし料理もある。福田さんは地区住民46人で結成した「針江生水の郷委員会」の一員として、連日、観光客の世話に追われている。

 針江の湧水を使って酒造りを営んでいる川島酒造へも立ち寄った。慶応元年の創業で「松の花」の銘柄で知られる。「日本晴や玉栄など県産の米を使っています。地産地消が原則ですが、近年は海外への輸出も増えました」と蔵人の春日井敬明さん。「水は酒の命。いい湧水に恵まれて…」と誇らしげだ。「端麗で旨口のお酒をぜひ…」と勧められた清酒の味は、川端で飲んだ水にも似て、すっきりとまろやかだった。

新旭花しょうぶ園(高島市新旭町藁園)

 新旭駅からバスで15分、新旭のシンボル「しんあさひ風車村」に隣接して広大な花畑が広がる。甲子園球場とほぼ同じ3.8ヘクタールに、白、ピンク、紫など色鮮やかに、350種・20万株・100万本のハナショウブが咲き競う。また、ポピー、ベニバナ、ヤグルマソウなどの洋花も初夏の陽光に映えて美しい。園内の散策に疲れたら、しょうぶ湯の足湯も楽しめる。近年すっかり見なくなったホンモロコが釣れる釣り堀(有料)も人気だ。そのほか、土産店、花苗市場もある。開園は6月30日まで。入園料500円(小・中学生250円)。問い合わせ 電話:0740(25)5668。

滋賀新聞TOP京都新聞TOP