4月8日号
日吉大社、里坊への玄関 京阪電鉄石山坂本線「坂本」

ファサードと三角屋根が特徴的な京阪石坂線・坂本駅
 石山寺、三井寺、近江神宮、日吉大社と全国的に知られる社寺を1本のレールで結んでいるのが京阪電鉄石坂線。総延長14・1キロ。もとより市民の大切な生活の足だが、大津を巡る観光路線でもある。春の1日、その最北端の駅・坂本駅を訪ねてみた。

 坂本駅の開業は1927(昭和2)年8月。70周年にあたる1997年に駅舎を改築し、あわせて駅前広場も整備した。比叡のなだらかな山並みを模した大屋根の曲線が美しいファサード、日吉参道の鳥居をイメージしたともいう三角屋根が続くコンコース。白を基調にした明るく開放的な空間が魅力的だ。駅前広場には穴太(あのう)衆積みの石垣と、最澄が茶の木を坂本に植えたという伝承に由来する日吉茶園という小さな茶畑もある。こうした地域の歴史風土に配慮した現代的なデザインが評価され、2000年に「近畿の駅100選」に選ばれている。

 駅舎はすてきだが、乗降客は1日3200人程度とそう多くはない。春秋の観光シーズンを除くと、通勤客と比叡山中・高校の生徒が大半だと駅員はいう。駅前は商店もまばらで、活気に乏しい町という印象は否めない。延暦寺の鎮護社である日吉大社の、ひいては延暦寺の門前町として歴史遺産に恵まれた坂本だが「観光客数は横ばい。歩こう会などの小グループは増えていますが」と、坂本観光協会の山田茂憲事務局長。人気がありながら中断していた延暦寺里坊庭めぐりの再開に期待をつないでいると話す。

 日吉大社の二の鳥居をくぐると、寂れた町という印象は一変する。参道の両側は緑豊か。里坊や社家が立ち並ぶ情趣ある景観が出現する。里坊とは比叡山で修行した僧侶が天台座主の許可を得て住んだ隠居坊。50余を数える里坊をつなぐのは、穴太衆積みの石垣が続く小路である。その独特の石積みの技に驚嘆する。


 石垣の上に白壁をめぐらした優美な滋賀院門跡、華麗な日吉東照宮、国の名勝指定を受けた旧竹林院庭園などを拝観して山王総本社・日吉大社へ。40万平方メートルにおよぶ広大な敷地には老樹が茂り、東本宮、西本宮(いずれも国宝)のほか17の社殿が端座している。桜と紅葉の季節にはライトアップされ、4月12日から15日の山王祭もにぎわうが、時期を外せば、静謐(せいひつ)そのものの神の住まいだ。神社からケーブルで比叡山頂へのコースもあるが、それは他日に。ともあれ、坂本は歴史探訪にも散策にも最適の町である。

 町の長老たちも坂本の歴史と風土を愛してやまない。たまたま出会った祝部☆丸さんも鳥居一雄さんも、社寺や町の歴史を語って倦(う)むことがなかった。「寛永年間に坂本の区画整理が行われ、1番高台に日吉東照宮を建てた」「足利時代に土倉(金融機関)が38軒もあって栄え、江戸期には2階建ての湯屋が3軒あった」などなど。

 延暦寺御用達の鶴喜そばでそばを食し、陶茶房でコーヒーを飲み、公人屋敷=写真下=を見学して帰途へ。延暦寺や日吉大社で事務方を務めた公人の住居は坂本の新しい観光スポットだ。

 ☆は、「ネ」へんに「喜」です。

西教寺(大津市坂本5丁目)

 日吉大社から北へ徒歩10分ほどの所にある天台真盛宗総本山。聖徳太子によって創建され、比叡山横川(よかわ)の良源大師や恵心僧都(そうず)源信が念仏道場とした。室町時代に真盛上人が再興、不断念仏の寺として栄え、全国に約400の末寺を有した。元亀2年の織田信長の比叡山焼き打ちで焼損した後、坂本城主となった明智光秀が檀徒となって復興に力を尽くした。総門は城門を移したとされる。境内には勅使門・本堂・本坊・宗祖大師殿・鐘楼などの堂塔伽藍(がらん)のほか明智光秀一族の墓がある。紅葉の名所としても知られ、全国からの参拝者のための宿坊も多い。

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